お世話になっております。
数週間前にオンセミコンダクタ―(ティッカー $ON / 通称オンセミ)の新潟工場が日本政策投資銀行や伊藤忠商事が出資する投資ファンドにより買収されることがニュースになっていました。
政投銀や伊藤忠出資ファンドら、オンセミ新潟工場を買収へ
日本政策投資銀行や伊藤忠商事が出資する投資ファンド、マーキュリアホールディングスは2022年11月1日、同社中核会社のマーキュリアインベストメント(以下、MIC)含む3社が、onsemi子会社であるオン・セミコンダクター新潟との間で、新潟工場(新潟県小千谷市)買収について合意した、と発表した。
eetimes.itmedia.co.jp
なお、オンセミは2020年からこの工場を売却を検討していました。自社での生産設備とそれにかかる投資を最小限に抑え、製品によっては外部製造へ委託するFab-Liter戦略の一環のようです。
ON Semiconductor to Explore Sale of Niigata Manufacturing Facility
ON Semiconductor Corporation (Nasdaq: ON), driving energy efficient innovations, today announced it is exploring a sale of its manufacturing facility
www.businesswire.com
今回売却が決まった新潟工場は車載顧客を含む様々なマーケット向けにパワー半導体やアナログ半導体製品を製造しているとのことで、今後日本の独立系ファウンドリーとしてパワー半導体及びアナログ半導体製品のを供給していく狙いがあるようです。
これからはQ4決算シーズンでもありますので個人的に半導体メーカー各社の動向を調べているうちに久々に整理も兼ねてパワー半導体市場に関する記事を更新したいと思います。
あと最近非常に興味深いウェブサイトを見つけました。下記です。パワー半導体以外にも様々な半導体メーカーに関する動向が非常に詳しく書かれていますので覗いてみてください。
パワー半導体では韓国や中国は日本に勝てない。DRAMのようにはいかない理由 | ポジテン
positen.jp
パワー半導体市場
まずパワー半導体市場とパワー半導体メーカーについて簡単におさらいです。
パワー半導体の市場規模
富士経済によると、パワー半導体市場は約2兆3000億円となっています。
富士経済は2022年5月、パワー半導体の世界市場を調査し、その結果を発表した。電動車や再生可能エネルギーの普及などによって、需要拡大が期待されるパワー半導体市場は、2022年見込みの2兆3386億円に対し、2030年は5兆3587億円規模に拡大すると予測した。
引用 – EE Times『パワー半導体市場、2030年に5兆3587億円規模へ』
WSTSによると、2022年の世界半導体市場規模は約6,500億ドルですので半導体市場に占めるパワー半導体市場のパイは3.5%程度です(現在のレートで換算すると約95兆円になってしまうのですが、上記の富士経済のレポートが出た今年5月以前にこのレートを想定していたとも思えないので)。
パワー半導体とは
パワー半導体とは電力を制御したり供給する半導体です。詳しくは下記リンクなどを参考にしていただければと思います。
小電力で演算や記憶などを行って「頭脳」にたとえられるマイクロプロセッサやメモリーといった半導体や、「目」にたとえられるカメラのイメージセンサーに対して、小電力から大電力まで電力の制御や供給を行う「心臓」にあたるのがパワー半導体です
引用 昭和電工マテリアルズ『【徹底解説】パワー半導体・パワーデバイスとは?その種類や主な用途、発熱・温度上昇と放熱対策』
パワー半導体市場の出荷額を多く占めるのがMOSFETやIGBTなどのディスクリート製品とバッテリーマネジメントなどのパワーマネジメントIC及びそれらからなるモジュール製品(IPM=Intelligent Power Module)です。
パワー半導体メーカーシェア
調査会社のOmdiaによる2019年~2021年までのパワー半導体メーカーのパワーデバイス売上シェアは下記となっております(グラフは筆者作成)。
1位、2位はドイツのInfineon TechnologiesとアメリカのON Semiconductorが不動ですが2021年はこれまで3位をだった三菱電機が順位をおとしてその代わりにスイスのST Microelectronicsが浮上しました。
パワー半導体は少量多品種生産
売上規模で見るとInfineonがダントツなわけですが、メモリ半導体やCPU・SoC市場とは異なり片手で数えられる数のメーカーによる寡占市場になっていないというのがパワー半導体市場の特徴かと思います。
CPUやメモリといった半導体は少品種大量生産の汎用品で、大雑把なイメージとしては規格化された製品をユーザーが使いこなす代わりにいかに安く必要なときに数を持ってこれるかがビジネスの命運を分けるのですが、一方のパワー半導体は顧客やエンド製品により多種多様なニーズが求められ、それらにあわせて生産をする故、少量多品種生産となるわけです。
その差がメモリやロジック半導体市場とパワー半導体市場におけるプライヤー数の差ではないかと筆者は考えます。
パワー半導体をけん引するアプリケーション
一般的に半導体市場はスマートフォン、PC、サーバーといったアプリケーションがけん引します。
しかし、これらのアプリケーションの恩恵を受ける半導体は汎用メモリーやCPUなどのロジック半導体です。
一方のパワー半導体の場合、自動車や産業機器といった分野に牽引されて市場が成長していきます。
パワー半導体メーカーの動向
現在のパワー半導体メーカーの戦略動向は下記の3つだと個人的に考えます。
・生産能力拡張とインチアップ
・SiCなどの次世代パワーデバイス
・パワー半導体以外の製品とのシナジー
生産能力拡張とシリコンウェハ300mm大口径化
2020年終盤から2022年頭にかけて半導体不足という言葉が世間を賑わせました。
この記事を書いている2022年12月時点では全体的な逼迫感は一服しているように思えますが、一方で一部の品種では根強い供給不足が残っていま